財産分与とは何か?
財産分与夫婦が離婚するとき、婚姻期間中に築いた財産を分けあうのが原則です。
これを「財産分与」といいます。
財産分与は、2分の1ずつ分けるのがルールですが、ローンがある場合やすぐに換金できない財産がある場合、また財産がどれだけあるかわからない場合など、問題は少なくありません。
ここでは、財産分与についての解説や不明な財産の調べ方について解説します。
目次
離婚時の財産分与とはなにか
財産分与とは、夫婦が離婚する際に、結婚してから築いた財産(共有財産)を分けることです。
通常は、離婚の際に一緒に財産分与も行われ、当事者同士の話合いでまとまらない場合は、離婚調停や離婚裁判で行います。
また、財産分与は、離婚後2年が経過するまでは請求することができます。
財産分与は、その内容から次の3つのタイプに分かれます。
(1)清算的財産分与
夫婦が婚姻中に築いた共有財産を清算することをいい、通常「財産分与」というとこの清算的財産分与のことを指します。
財産を折半して、一度で終了するのが通常です。
(2)扶養的財産分与
夫婦の一方が経済的に弱い立場にある場合に、自立できるまで援助する財産分与のことをいいます。
扶養的財産分与がもらえる条件に決まりはありませんが、夫婦の収入差が大きい、病気や子育てのため働けない、実家の支援が受けられないなど、特別の事情が必要です。
清算的財産分与と異なり、扶養的財産分与では、就職や再婚などで生活が安定するまで、半年から3年にわたり払い続けることが多いです。
金額も決まりはありませんが、「婚姻費用算定費表」(別居中の夫婦の生活費を算定する際の目安)が参考にされるのが一般的です。
(3)慰謝料的財産分与
離婚原因が一方の配偶者にある場合に、片方の配偶者に謝罪の意味を込めて多めに行う財産分与のことをいいます。
専業主婦(主夫)でも大丈夫。財産分与の分け方とは
財産分与では、夫婦の財産を2分の1ずつ折半するのが原則です。
夫婦の一方がフルタイム勤務の正社員、もう一方が専業主婦(主夫)といったケースでも、家事を担当する配偶者の内助の功が認められるため、分け方に違いはありません。
ただし、夫婦の事情によっては、分け方に例外がある場合があります。
(1)夫婦の一方が特殊な事情で収入を得ていた場合
夫婦の一方が努力や特別な才能で高収入を得ていた場合、折半にならないことがあります。
実際の裁判例として、次のようなものがあります。
①夫が医師で病院を経営していた夫婦の事例(福岡高裁S44.12.24)
病院を経営する医師の夫と妻が約4億円の共有財産を有していたケースで、財産形成に対する妻の貢献度が低いとして分与額が2000万円とされたケース
②夫が一部上場企業の代表取締役だった夫婦の事例(東京地裁H15.9.26)
会社経営者の夫が自らの手腕で220億円稼いだ夫婦の財産分与で、妻の貢献度が低いとして5パーセント(10億円)と判断されたケース
このように、過去の裁判例でも、高収入を得なかった側の配偶者が財産形成に貢献した程度や離婚後の生活などを考慮して、裁判所が財産分与の金額を決めることになります。
(3)財産の価値が変わった場合
離婚を前提に別居した後、実際に離婚するまでに時間がかかり、その間に不動産価格の変動などによって財産の価値が変わる場合があります。
財産分与は、夫婦が協力して築いた財産を分け合うことが目的なので、離婚時に財産の価値が変わっていた場合は、原則として別居開始時の財産額を基準として財産分与をします。
財産分与の対象になる財産とは?車・退職金・遺産など気になる財産の取り扱い
財産分与の対象になる財産としては、夫婦が結婚中に築いた資産(車や不動産などプラスの財産)と、負債(借金などのマイナスの財産)が含まれます。
反対に、個人の財産(遺産など)は財産分与の対象になりません。
具体的には、次の例を参考にしてください。
(1)不動産の財産分与
夫婦で所有する不動産(土地、住宅、マンションなど)は、共有財産として財産分与の対象になります。
売却した代金を折半するか、夫婦の一方が住み続ける場合は、住む側が時価で算定した半額相当を払います。
(2)車の財産分与
自動車も、夫婦が結婚中に購入した場合は共有財産になるのが通常です。
売却して代金を折半するか、利用する側が時価の半額を相手に払うことが多いです。
(3)預貯金の財産分与
口座の名義にかかわらず、婚姻中に貯めた預貯金は財産分与の対象になります。
(4)子ども名義の預貯金の財産分与
子どもの名義の預貯金が財産分与の対象になるかは、貯金の性質によって変わります。
夫婦が子どもの名義で貯金していただけの場合は、共有財産として財産分与の対象になりえますが、貯金目的が入学費や結婚資金など明らかに子どものための場合は、親から子への贈与にあたり財産分与の対象外になることもあります。
(5)株式の財産分与
婚姻中に夫婦が株を買っていた場合は、別居を始めた時に保有していた株が財産分与の対象になります。
(6)保険金の財産分与
婚姻中に加入した生命保険や学資保険も共有財産として財産分与の対象になります。
別居を開始した時点の解約返戻金が、折半する金額の目安になります。
(7)退職金の財産分与
実務では、退職金も共有財産として財産分与の対象になります。
退職前に離婚する場合は、結婚後、別居開始までの期間の退職金相当額が共有財産となります。
金額を算定するには、中間利息など複雑な計算が必要になるので、弁護士に相談することをおすすめします。
借金がある場合の財産分与
夫婦に借金がある場合、原則として借金も財産分与の対象になります。
ただし、夫婦の一方が高価なブランド品を買ったり、ギャンブルなどで借金をした場合は、夫婦の生活のためにした借金とは言えないので、財産分与の対象にはならず、借りた本人だけが返済の責任を負います。
反対に、結婚期間中にマイホームを購入して住宅ローンがある場合などは、夫婦の生活のための借金なので、離婚する際の財産分与には注意が必要です。
特にお悩みの方が多い住宅ローンについてご説明します。
(1)住宅ローン<不動産価格のケース
例)夫婦購入したマイホームの不動産価値が2,000万円、夫名義の住宅ローンが1,000万円残っている夫婦。
住宅ローンより不動産価格の方が高いことをアンダーローンと言います。
この場合、マイホームを売って住宅ローンを完済し、残った1,000万円が不動産の価値になるので、財産分与では500万円ずつ折半することになります。
マイホームを売らずに、夫婦の一方が離婚後に住み続ける場合は、不動産価値の半分の500万円を出ていく配偶者に支払います。
(2)住宅ローン>不動産価格のケース
例)夫婦でマイホームを購入し、夫名義の住宅ローンが2,000万円残っていて、夫名義の預貯金が1,000万円ある夫婦。
住宅ローンより不動産価格の方が低いことをオーバーローンと言います。
この場合、マイホームを売却しても住宅ローンが残るため、マイホームに不動産価値はないことになります。
また、残った住宅ローンの残金は、財産分与の問題にはならず、債務者や連帯保証人が返済しなければいけません。
オーバーローンのケースでマイホームに夫婦の一方が住み続ける場合には、財産分与の対象にはならないものの、家を出た配偶者がローンの支払い義務が残る場合は不公平が生じます。
夫婦間で保証人を抜ける等の交渉が必要になるでしょう。
離婚して財産分与しない方法とは
離婚しても財産分与をしたくないという方や、離婚時に自分の財産は財産分与の対象にしたくないという方も少なくありません。
その場合は、次の対処方法を参考にしてください。
(1)離婚しても財産分与したくない場合の対処方法
離婚しても財産分与をしない場合は、離婚の際の話し合いをまとめた書面に記載しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
具体的には、離婚の際の公正証書や離婚調書に「精算条項」という文言を入れ込みます。
精算条項とは、お互いに債権債務がないこと、財産上の請求をしないという約束のことです。
実際には「本件離婚について、相互に債権債務がないことを確認する。」などと記すことで、財産分与もしなくて済みます。
ただし、離婚原因が不倫だった場合に慰謝料請求も放棄したことになるので、精算条項を盛り込む場合には弁護士に相談することをおすすめします。
(2)自分の財産を財産分与したくない場合の対処方法
財産分与の対象にならない財産のことを「特有財産」といいます。
特有財産には、結婚前から夫婦の一方が有していた財産と、結婚中に夫婦の一方が独自に得た財産の2種類が含まれます。
とはいえ、実際に生活をすると、独身時代の貯金を夫婦の生活に持ち出したり、マイホーム購入の頭金を出してもらったケースなど、共有財産と混同しやすいこともあります。
離婚時に財産分与の対象にしたくない場合は、次のような対処方法を検討するとよいでしょう。
①夫婦財産契約を結ぶ
結婚前に限りますが、婚姻届を提出する前までに「夫婦財産契約」を結んで登記すると、独身時代の財産が夫婦の一方のものと証明できます。
②贈与契約書の作成、遺産分割協議書の作成
結婚中に親からマイホームの頭金を出してもらったケースは、贈与に当たるとして、離婚時の不動産価値に引き直して共有財産から外れる場合があります。
共有財産から外れるかは、外したい方が証明しなくてはいけないので、親からお金をもらった際には贈与契約書を作成しておきましょう。
また、親から相続した遺産も共有財産に含まれません。
遺産分割協議書などの証拠を保管しておきましょう。
③銀行取引の履歴の保管
贈与を受けた際の契約書がない場合は、通帳に入金された履歴が証拠になりえます。
昔の履歴は通帳に反映されないこともあるので、取引がある銀行に確認するなどしてみましょう。
離婚時の財産分与で財産隠しを防ぐための方法とは
特に夫婦関係に問題が生じて離婚する場合、夫婦の一方が財産を多く獲得するために夫婦の財産を隠してしまうことは少なくありません。
財産を隠されると、なかなか個人では見つけにくいですが、専門家の力を借りて財産を調査することができます。
(1)弁護士照会制度
弁護士照会制度は、弁護士が弁護活動をする際に必要な範囲で資料や証拠を集めるための、法律上認められた制度です。
弁護士照会制度は、話し合いの段階から裁判の段階でも、いつでも利用できるのがメリットです。
弁護士は、所属している弁護士会を通じて、銀行にどれだけ残高があるかや、保険協会にどのような保険契約を結んでいるか等を照会し、回答を得ることができます。
回答は強制ではありませんが、弁護士からの照会なので、個人が問い合わせても教えてくれないことでもこたてくれることは多いです。
(2)調査嘱託制度
調査嘱託制度は、離婚裁判で裁判所を通じて行う財産調査の手続です。
裁判所が関与する強力な手続きであるだけに、むやみに利用はできず、調査嘱託をする根拠を裁判所に示すことが実務上必要とされ、嘱託を受けた先が相手方に財産を開示することの同意を求めることもあります。
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