離婚協議書の作成
公正証書離婚全般調停離婚や裁判離婚などと異なり、夫婦の話し合いで離婚に合意する「協議離婚」では、合意した内容について証明できるものは、「離婚協議書」などの書面しかありません。
もちろん、財産分与や養育の支払いなど離婚条件は、口約束であっても法律上、有効に成立しますが、書面を残しておかないと、相手が取り決めを守らなかった場合、言った、言わないの水掛け論に終始し、結局、約束が守られないことも十分に考えられるからです。
今回は協議離婚書の作成ポイントについて解説します。
協議離婚書の作成のポイント
(1)離婚協議書作成の必要性
調停離婚の場合は調停調書、裁判離婚の場合は判決書が離婚条件の内容を記した書面として作成されますが、協議離婚の場合は、自動的に書面が作成される仕組みにはなっていません。
自分たちで作成しない限り離婚条件に関する書面は作成されないのです。
合意内容は口約束でも法律上有効と扱われますが、慰謝料や養育費の不払いなど後日紛争が発生した場合、離婚協議書が存在しなければ合意内容を示す証拠がなく、裁判などで争うことが困難になります。
そのため、後日の紛争を予防し、万が一トラブルが発生した場合の確実な証拠として離婚協議書を作成する必要性は高いといえます。
(2)離婚協議書作成のメリット
離婚協議書を作成するメリットとしては、話し合いによって合意した離婚条件につき、不履行が生じた場合に、履行を請求するための証拠とすることができます。
これは裏を返せば、離婚条件を書面化しておくことで、後日、書面に記載されていない金銭の支払いについては拒むことができるという利点になります。
(3)協議離婚の条件を記載した書面の種類
協議離婚の場合、離婚条件について記載した書面としては、①夫婦や弁護士などが作成する離婚協議書と、②公証役場で作成する離婚給付等契約公正証書の2種類があります。
財産分与や慰謝料、養育費など金銭の支払いがある場合は、公正証書で作成した方が強制執行などの面で利点が多いですが、公証役場に行く時間がない、相手が公証役場に行くことに合意しない等の事情がある場合は、離婚協議書を作成しておくようにしましょう。
(4)協議離婚書の書式・記載事項
離婚協議書ですが、書式等について特に決まりはなく、縦書きでも横書きでもかまいません。
記載する主な内容としては下記のものがあります。
①お金の支払いに関する事項
- 財産分与について
- 慰謝料について
- 婚姻費用について
②子どもに関する事項
- 親権者の指定について
- 養育費について
- 面会交流について
③その他
- 年金分割について
- 借金・住宅ローンの支払いについて
- 公正証書の作成について
- 清算条項について
お金の支払いに関する事項
離婚の話し合いで一番揉めるのがお金の支払いについてです。
離婚後の生活を支えるためにはお金があることに間違いはありませんので、離婚協議書では、どのような種類のお金・財産をどの程度もらえるのか、一括で支払われるのか、それとも分割なのかお金の支払い方法なども具体的に記載するようにしましょう。
(1)財産分与
財産分与とは、夫婦の一方から他方に対し、財産を分け与えることをいいます。
これには①婚姻中の夫婦の財産の清算、②離婚後の扶養(扶養的財産分与)、③離婚による精神的苦痛に対する慰謝料、④過去の婚姻費用の清算という4つの内容が含まれているとされています。
財産分与の大きな柱となるのが婚姻中の共有財産の清算です。
例え夫名義、妻名義の財産であっても婚姻中に築いた財産であれば、財産分与の対象となります。
離婚協議書では、①財産分与の対象となる財産はなにか、②誰が誰に対して何を財産分与として渡すのか、③いつ財産を譲り渡すのか、④一括で支払うのか、分割で支払うのかといった事項を記載するようにします。
財産分与の対象が自宅などの不動産の場合は、登記の名義を変更しなければ第3者に自分のものであることを主張できなくなりますので、明け渡しの時期、所有権移転の時期、登記手続き、公租公課の支払いについて等の取り決めを記載するようにしましょう。
なお、住宅ローンが残っている場合は、住宅ローンは誰が支払っているのか等も記載するようにします。
①記載例:金銭の財産分与
第○条 甲は乙に対し財産分与として金○○万円を令和元年○月○日までに乙が指定する銀行預金口座に振込送金の方法により支払う。
2前項の振込手数料は甲の負担とする。
②自宅の財産分与
第○条 甲は乙に対し財産分与として、別紙物件目録記載の甲所有名義の不動産(以下「本件不動産」という。)を譲り渡し、離婚届が受理されてから1週間以内に、本件不動産を乙に明け渡すとともに、乙のために財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをするものとする。
2.前項の登記手続き費用は甲の負担とする。
3.本権不動産に関する固定資産税等の公租公課その他の賦課金については、第1項に規定する所有権移転の日までは甲の負担とし、その翌日以後は乙の負担とする。
③住宅ローン完済後に自宅を財産分与する場合
第○条 甲は別紙物件目録記載の甲所有名義の不動産(以下「本件不動産」という。)に関する下記住宅ローンについて、責任をもって支払うものとする。
2.甲が前項の住宅ローンを完済したときは、甲は乙に対し財産分与として本件不動産を譲り渡し、完済の日から1週間以内に乙のために産分与を原因とする所有権移転登記手続きをするものとする。
3.前項の登記手続き費用は甲の負担とする。
4.甲は乙に対し、離婚から第1項の住宅ローンが完済するまでの間、乙が本件不動産を無償で使用することを認める。
④扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、夫婦の一方が離婚によって生活に不安が生ずる恐れがある場合に、他方が経済的に生活をサポートする目的で支払われるものです。
扶養の額は、婚姻期間や夫婦の年齢や年収・資産、頼るべき親族の有無などを総合的に考慮して決定することになります。
支払の期限については、就職や再婚などが決まるまでの一定期間として、一般的には3年程度とされています。
⑤記載例
第○条 甲は乙に対し、乙の生活が安定するまでの3年分の生活費として月金○万円の支払い義務があることを認め、令和元年○月から令和4年○月まで、毎月末日限り金○万円を乙の指定する口座へ振込送金の方法により支払う。
2.前項の振込手数料は甲の負担とする。
(2)慰謝料
慰謝料とは、婚姻期間中に夫婦の一方が相手の行為によって精神的苦痛を受けた場合に、相手方に請求できる損害賠償金のことです。
そのため、離婚の際に必ずしも請求できるものではなく、相手方に浮気や不貞行為、暴力や暴言など離婚の責任を負わせるような要因があることが必要です。
慰謝料を請求できるケースでは、①支払われる金銭の額、②支払い期限、③一括で支払うのか分割で支払うのかなどを離婚協議書に記載するようにします。
「記載例」
第○条 甲は乙に対し慰謝料として金○○万円の支払い義務を認め、これを○○回に分割して、令和元年○月から令和○年○月まで、毎月末日限り金○万円を乙の指定する口座へ振込送金の方法により支払う。
2.前項の振込手数料は甲の負担とする。
(3)婚姻費用
婚姻費用とは、婚姻生活に必要な生活費や光熱水費、医療費、生活雑費などのことで、婚姻期間中であれば同居別居にかかわらず、夫婦の収入に応じて双方が負担すべきものです。
離婚まで別居していたり、夫婦仲が悪く婚姻費用を支払ってもらっていない場合は、離婚協議書に過去の婚姻費用を清算する条項をいれておくとよいでしょう。
「記載例」
第○条 甲は乙に対し、平成○年○月から令和元年○月の間、未払いとなっていた婚姻費用金○○万円の支払い義務があることを認め、これを令和元年○月○日までに乙が
指定する銀行預金口座に振込送金の方法により支払う。
2.前項の振込手数料は甲の負担とする。
子どもに関する事項
未成年の子どもをもつ夫婦が離婚する場合、親権者を誰にするのか、養育費の支払いはどうするのか、一緒に暮らさない親との面会交流はどうするのかなど離婚前に決めておかなければならない事項があります。
(1)親権者の指定について
未成年の子がいる場合、その子の親権者を夫婦のいずれか一方に決めなければ離婚をすることができません。
「記載例」
第○条 甲乙間の長女○○(平成○年○月○日生まれ、以下「丙」という。)の親権者を乙と定める。
(2)養育費について
離婚によって夫婦関係が解消しても、親と子の関係は一生続くため、子が成人に達するまで親には子を扶養する義務があります。
そのためこの親権者にならない場合や子と一緒に生活しない場合であっても、子どもの養育費を分担する義務があるのです。
養育費とは、子どもを育てるために必要な費用のことで、衣食住の費用や教育費、医療費、娯楽費などが含まれます。
離婚協議書には、①養育費として支払われる金銭の額、②支払期限、③支払方法などを記載しておきます。
「記載例」
第○条 甲は乙に対し、丙の養育費として令和元年○月から丙が20歳に達するまで、毎月○万円ずつ、毎月末日に限り乙指定の丙名義の銀行口座に振込送金の方法により支払う。
2.前項の養育費は物価の変動、その他事情の変更に応じ、甲乙の協議によって増減できるものとする。
(3)面会交流について
面会交流とは、離婚後、子を引き取らなかった親が、子と定期的に会ったり、電話や手紙などの方法で接触できる権利のことです。
離婚協議書には、①面会の頻度、②面会の日時、③面会の場所、④子の受け渡しの方法等を記載するようにします。
「記載例」
第○条 乙は甲に対し、甲が丙と月1回、第2土曜日の午前11時から午後5時まで甲の自宅において面会交流を行うことを認める。
2.丙の受け渡しについては、甲が乙の自宅まで出迎えに来、甲が乙の自宅まで送り届けるものとする。
3.宿泊を伴う面会交流について、乙が同伴するものとする。
その他の事項
熟年離婚のように高齢の夫婦が離婚する場合は、夫の年金を妻に分割するのか、また住宅ローンなどの借金が残っている場合はその支払いをどうするか、など決めておく必要があります。
また、約束が守られない場合に備えて公正証書で改めて離婚協議書を作成したい場合は、離婚協議書の中で公正証書の作成についての合意を取り付けておくようにします。
さらに、離婚後に相手方から過剰に金銭の要求等を避けるためにも、「離婚協議書に書かれていないものについては一切支払いをしない」旨を記載しておくとよいでしょう。これを清算条項といいます。
まとめ
離婚協議書とは、夫婦双方の合意により作成される「契約書」です。
契約である以上、離婚協議書の内容に違反した場合は、相手方に履行を求める裁判を起こすことも可能なのです。
離婚協議書を弁護士に依頼すれば、できるだけ有利な条件で合意できるか、あるいは不利な事実についても最低限度の支払いですむようどのように不利な事実を認め合意していくか、について法的な視点からアドバイスを受けることができるという大きなメリットがあります。
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